焼鳥 市松 / ICHIMATSU

2014

Kitashinchi / OSAKA
焼鳥割烹 Yakitori Restaurant

大阪市北区堂島1-5-1 エスパス北新地23

店舗設計監理・インテリアデザイン/Interior Design Work

渇いた艶、深い空間

 堂島中通は北新地・堂島においてはとりわけ落ち着いた通りである。また数千店はあるとい
 われる北新地の中で、独創的で上質な有名店がいくつも存在するエリアでもある。
 この通りに移転した「焼鳥 市松」はコース料理のみを提供する焼鳥「割烹」として、既に
 言わずと知れた存在である。今回の移転では斬新な世界観をより研磨させるため、料理の
 ブラッシュアップと空間の仕立ての刷新がおこなわれた。
 
 北新地の他の通りとは逆方向に傾いている堂島中通には、微妙に誇張された独特のパース
 ぺクティブが存在する。
 通りに面したファサードはこの視覚に従いながら分節させた黒色壁を配置し、その隙間に
 潜り込ませるように内露地と玄関を設えた。

 内部空間への設えは、玄関戸に赤銅の引手「折松葉」を配することからはじまる。
 内壁には濃灰色の漆喰系左官材を塗り込み、スモーキーで渇いた艶をもたせ、部分によって
 黄金の雲母片を混入させることで複雑な奥行感を空間に与えている。
 直線と直角のみで構成されたストイックなカウンターは、精悍さと優しさを併せもった木の
 量塊感を露出させるため、20尺あまりの無垢材から丁寧に削り出された。
 また、店の主役でもある焼台は鋳鉄製の竈(くど)をモチーフとしている。
 木材と鋳鉄という素材の差異により「食す」空間と「焼く」空間にギャップを与え、客席
 と料理人との間に適切で心地よい距離感をあえて生み出している。

 焼串一本ごとの素材の施しにみる仕立ての丁寧さと、串を火に掛ける主人たちがつくる居心
 地よい緊張感は、刀匠による刀身の鍛錬のような洗練さとダンディズムに満ちている。
 手仕事の痕跡が素材の奥底に潜むような繊細な仕上手法を追求することで、シンプルで研ぎ
 澄まされた空気を過剰に刺激せず、深いところで人と呼応する空間が完成した。 (津田朋延)

Photography by Yasunori SHIMOMURA

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